AIの稼働時間が社員の勤務時間を超えたAnthropic|技術職の新規採用に占める新人は9%に

Anthropicが、AIの導入で社内の採用と働き方がどう変わったかを公表した

AI企業のAnthropicは2026年10月16日、自社の経済調査チームによる報告「How employment is changing at Anthropic」を公開しました。チャットAIのClaudeを開発している会社が、自社の社員がClaudeを仕事に使うようになって、採用、仕事の中身、時間の使い方がどう変わったかを、社内のデータでまとめたものです。

使ったデータは、人事と財務の記録、Claudeの利用記録、コードの変更履歴などの成果の記録、社員アンケート、カレンダー、社内チャット(Slack)、採用面接の評価シート、17人へのインタビューです。著者は、Anthropicで起きたことが、AIによって仕事の組み立て方や採用がどう変わるかを、経済全体に先立って示す例になりうると書いています。

この記事では、報告書の数字のうち、技術職の新人採用、AIエージェント(指示を受けて作業を自分で進めるAI)の稼働時間、社員の仕事の中身、採用で評価される点の4つを取り上げます。あわせて、数字を自分の職場に当てはめるときに押さえておく条件と、エンジニアや採用担当が今から確かめられることを説明します。

4つの要点

AIエージェントが作業を担い、社員の仕事は指示・確認・調整へ移りつつある

新人採用

27% → 9%

技術職の新規採用のうち、新人が占める割合。

AIエージェントの稼働時間

勤務時間の6倍

全社の合計は2026年3月に社員の勤務時間を超えた。社員が自分で動かす分は8月に本人の勤務時間の6倍。

会議の時間

1年で20%増

社員1人あたりの会議時間(中央値)。理由の一部は、会社の成長と会議の多い職種の増加。

採用の評価

AI活用の言及 約3倍

技術職の面接の評価で、候補者のAIの使い方への言及が約3倍に。自律性と判断力への言及も増えた。

社員は3倍に増えたが、技術職の新人採用の比率は下がった

報告書によると、Anthropicの社員数はこの1年で約3倍に増えました。そのなかで、技術部門(エンジニアや研究職)の社員に占める新人(報告書の表現ではジュニア。職位の低い層)の割合は、2025年初めの21%から14%へ下がっています。新たに採用した技術職のうち新人が占める割合は、27%から9%へ、さらに大きく下がりました。新人向けの求人は、2025年12月以降に特に減ったと書かれています。

Anthropic社内の3つの比率の変化を示す横棒グラフ。技術部門の社員に占める新人は21%から14%、技術職の新規採用に占める新人は27%から9%、全社員に占める技術部門は61%から56%に下がった。
Anthropicの報告書(2026年10月16日)の数値から作成。報告書は、新人採用の比率について比較の起点の時期を書いていません。

人数の比率で見ると、技術部門そのものも全社員の61%から56%へ下がりました。技術職の採用も人数では増えましたが、営業、財務、採用などの部門がそれより速く増えたためです。報告書は、その一部は、技術部門以外の社員もClaudeにコードを書かせて自分の仕事の道具を作れるようになった影響かもしれないと書いています。

会社は、AIで仕事が大きく変わりそうな職種を早めに見つける仕組みを作り、そこにいる社員を別の部署へ移す方針をとっています。在籍1年以上の社員が部署を移る割合は、2026年は前年より月あたり50%高くなりました。

AIエージェントの稼働時間は2026年3月に社員の勤務時間を超えた

社員がClaudeに作業を任せる時間は、1年ほどで急に伸びました。報告書は、AIエージェントの稼働時間(考えて文章やコードを出したり、ツールを動かしたりしている時間)を足し合わせ、社員の勤務時間(人数×週40時間)と比べています。

Anthropic社内でAIエージェントの利用が広がった流れ

2025年7〜8月

AIエージェントに渡す作業手順書(常設の指示)は数百件。技術部門以外の社員がコードを書かせる回数は月2回程度。

2026年3月

全社のAIエージェント(社員が対話しながら動かすものと、自動で動き続けるものの合計)の稼働時間が、社員の勤務時間の合計を初めて上回った。

2026年5月

技術部門以外の社員がコードを書かせる回数は月90回に増えた。

2026年7〜8月

社員が自分で動かすAIエージェントの稼働時間は、その社員の勤務時間の6倍になった。作業手順書は8,500件に増えた。

成果の数字も伸びています。エンジニア1人あたりのコードの変更登録(コミット)の回数は、半年前の約5倍になりました。営業の成約件数や法務の契約処理件数など、技術職以外の成果も増えています。ある営業担当者は、自動化で以前の作業の約20%がなくなったと答え、別の営業担当者は、以前より30%多くの顧客と話せるようになったと答えています。

コードの品質についても調べています。同じ人が同じ月に同じ場所で書いたコードのうち、AIエージェントが書いた部分と本人が書いた部分を比べると、あとで削除されたり元に戻されたりする割合に差は見られませんでした。報告書は同時に、AIの誤りは人の誤りより見つけにくい可能性があること、コードが増えることと良いコードが増えることは同じ意味にならないことも書いています。

社員の仕事は、AIへの指示と確認、人どうしの調整に移っている

AIエージェントが作業時間の多くを担うようになって、社員が時間を使う先が変わりました。社員の仕事の中身の変化を、報告書の数字4つで示します。

AIが社員の返事を待つ時間

約80%

社員とやりとりしながら進めるClaudeの作業時間のうち、社員の返事を待っている時間の割合。報告書は、人の確認が作業の速さを左右していると見ている。

AIに使わせる道具づくり

10% → 22%

社員がClaudeと作業した回のうち、AIに使わせる道具の作成や自動処理の見張りに充てた回の割合(2025年秋→2026年春)。

役割が変わったと答えた人

20%

2026年4月のアンケートの自由回答で、自分の役割が作業をする役からClaudeを管理する役へ移ったと書いた社員の割合。

会議の時間

20%増

社員1人あたりの会議時間(中央値、前年比)。技術職の担当者だけで見ても16%増えた。

技術部門以外の部署では、Claudeがやりとりのなかで出した文章をすべて読むと、勤務時間の半分以上かかる計算になります。報告書は、人の注意と判断が新しい制約になりつつあると書いています。

会議が増えた理由の一部として、報告書は会社の成長と、会議の多い技術職以外の職種が増えたことを挙げています。技術職でも、方針を決める議論や不具合の対応では、人が集まって話し合い、決める場面が残ると書いています。報告書が調べた1つの大きな部署の社内チャット(Slack)では、AIエージェントが加わったあとも人どうしのやりとりは減らず、その上にAIとのやりとりが積み重なっていました。

採用の面接では、AIの使い方と自律性・判断力が重視されるようになった

報告書は、2024年以降に採用した数千人分の、面接官が書いた評価シートを集計しています。全体で最もはっきりした変化は、候補者がAIツールをどう使いこなしてきたかへの言及です。2024年には技術職の評価の約5%、技術職以外の約7%で触れられていましたが、2026年には技術職で約3倍、技術職以外で約4倍になりました。

技術職の評価

最も増えた言及: 自分で課題を見つけて進める力(自律性)と、何を作るか・どこまで任せるかの判断力

減った言及: 特定分野の専門知識

技術職以外の評価

増えた言及: 顧客への向き合い方と、会社の目的への共感

減った言及: 決まった作業を正確にこなす実行力

エンジニア何人に対してプロダクトマネージャー(何を作るかを決める担当)が1人いるかという比率も、約17対1まで広がり、2025年から上がり続けています。マネージャーによるコミットの数も2倍になったと書かれています。これらの数字からは、作業をAIへ任せ、人は何を作るかの判断と確認を受け持つ形へ、仕事の分け方が変わってきていると読み取れます。

Anthropicの数字を自分の職場に当てはめるときに押さえる条件

報告書の著者は、Anthropicのやり方の多くは経済全体ではそのまま再現できないと書いています。数字を読むときは、次の4つの条件をあわせて見ると、自分の職場との違いを判断しやすくなります。

報告書の数字の前提になっている4つの条件

  1. AIを作っている会社: 自社のClaudeを、技術部門以外も含む全社で日常の仕事に使っている。
  2. 急成長の時期: 社員が1年で約3倍になった。著者は、事業の伸びによる影響を成果の数字から切り分けにくいことも挙げている。
  3. 自分から使い始めた人の比較: 生産性の比較は、AIエージェントを使い始めた192人と使っていない74人の比較。使うかどうかは本人が選んでおり、使い始めた人はもともと成果が伸びていた。著者自身がこの偏りを挙げている。
  4. プログラムによる自動の分類: 道具づくりの割合と面接評価の言及は、自動の分類プログラムが文章を読み分けて数えた値。

社員の予想も、一般の人より高く出ています。2030年までにAIが自分の仕事の何割をこなせるようになるかという質問に、Anthropicの社員の答えは75%でした。比較として示された米国の一般の人の回答は28%です。

エンジニアと採用担当が、いまの職場で確かめられること

AIを使う会社が増えれば、報告書が示した変化の一部はほかの職場でも起こりうると筆者は考えています。読み終えたあとに確かめられることを、立場ごとにまとめました。

エンジニア・これから就職する人

  • AIに任せた作業と、自分で判断した点を分けて説明できる実例を1つ用意する
  • AIが出したコードや文章を、どこまで読んで確かめたかを言えるようにする
  • 応募先の求人で、新人向けの枠と求める経験の書き方を確認する

採用担当・マネージャー

  • 面接の評価項目に、AIツールの使い方と判断の根拠を聞く質問があるか見直す
  • AIの出力を読んで確かめる時間を、チームの作業時間に入れて見積もる
  • 仕事が変わりそうな職種を早めに見つけ、部署を移る道を用意する

Anthropicは報告書のなかで、AIで得た成果を社員と分け合う仕組みと、社内で人を柔軟に配置し直す仕組みが、AIを多く使う会社には欠かせないと書いています。あわせて、会社の取り組みだけでは新人採用の減少には対応しきれず、学び直しや所得の支えといった政府の政策も必要だと述べています。

新人の採用がどう変わるかは、会社の規模や業種で大きく違います。それでも、AIへの指示と確認、人どうしの調整に仕事が移る流れが自分のチームでも起きているかは、手元の記録で確かめられます。まずは、AIの出力を確かめる時間と会議の時間がこの半年でどう変わったかを見てみると、会議20%増や返事待ち約80%といった報告書の数字に、自分のチームがどこまで近いかが分かります。