OpenAIがGPTのふるまいの指針「Model Spec」を改訂|前の版と全文を比べて分かった、記憶の使い方などの新しいルール
OpenAIが10月29日、AIのふるまいの指針「Model Spec」を改訂した
OpenAIは2026年10月29日(米国時間)、自社のAIモデルにどうふるまってほしいかを文章にまとめた指針「Model Spec」の改訂版を公式ブログで公開しました。改訂版の全文は公式サイトとGitHubのリポジトリで読めます。
Model Specは、ChatGPTやAPIで使われるOpenAIのGPTモデルについて、指示が食い違ったときにどれを優先するか、うそをつかない、危険な手助けをしない、といった方針を、良い答えと悪い答えの例つきで並べた文書です。OpenAIはこの文書に沿うようにモデルを学習させていると説明しています。今回の改訂では、文書全体を5つの価値で組み直し、会話の記憶の使い方などの節を新しく加え、口調や書式についての細かな指針の多くを外しました。
この記事では、GitHubに残っている前の版(2026年8月18日版)と今回の版の全文を手元で比べ、どの節が加わり、どの節が外れたかを確かめた結果を紹介します。ChatGPTを使う人と、GPTモデルでアプリを作る開発者が、どんな答え方を期待でき、何を確かめられるかまでをまとめます。
改訂の要点
指針の柱を5つの価値に組み直し、記憶の使い方と人による監視の節を足して、口調の細則を減らした
文書の柱
5つの価値
人の意図に忠実、害を減らす、正直、人の主体性、他者への配慮。大見出しがこの5つになった。
会話の記憶
新しい節を追加
過去の会話や記憶を、役に立つときだけ使い、なぜ使ったかを説明できるようにする。
人による監視
AIが停止・修正に協力
監視、修正、停止の指示に従い、情報を隠さないことを、いちばん強い段階(root)の決まりとして加えた。
口調と書式
細則の多くを削除
「温かく」「好奇心を持って」などの節を外し、利用者の好みと場面に合わせる方針にした。
出典: OpenAI「An updated Model Spec for more capable and beneficial AI」(2026年10月29日)、GitHub openai/model_spec の2026-08-18版と2026-10-29版の比較
文書の大見出しは、5つの価値の順に組み替わった
前の版の大見出しは、「指示の優先順位」「越えてはいけない範囲」「一緒に真実を探す」「最善の仕事をする」「ふさわしい文体」「18歳未満向けの原則」のように、決まりの種類ごとに分かれていました。今回の版では、冒頭の概要と用語の定義に続く大見出しが、5つの価値そのものになっています。
OpenAIは公式ブログで、5つの価値はこれまでの指針にもあった考え方をまとめたもので、まとめ直したことで指針が手薄だった場所が見つかった、と説明しています。前の版の節の多くは、名前を変えずに新しい大見出しの下へ移りました。
大見出しの対応
前の版の節が、今回の版のどの価値の下へ移ったか
1. 人の意図に忠実に
Be faithful to human intent
前の版の「指示の優先順位」を引き継ぐ(行動の副作用の節は「害を減らす」へ移った)。新設: 人による監視と修正への協力、会話の文脈と記憶の使い方。前の版の「ふさわしい文体」の節のうち、場面と相手に合わせて口調を選ぶ節がここへ移った。
2. 害を減らす
Minimize harm
前の版の「越えてはいけない範囲」を引き継ぐ。行動の副作用の節が「指示の優先順位」からここへ移り、18歳未満の安全の節と、断るときの答え方の節もここへ入った。
3. 正直で透明に
Be honest and transparent
うそをつかない、相手に迎合しない、不確かさを伝える、などの節。前の版の「最善の仕事をする」から、誤りを避ける節が移った。
4. 人の主体性を支える
Facilitate human agency
客観的な立場で答える、さまざまな意見を示す、などの節。新設: 利用者が自分で理解し、選び、行動する力を強める節。
5. 配慮して行動する
Act with care
新設: 作業の影響を受ける周りの人に配慮し、その場の社会的な決まりに従う節。前の版の「創造的に」の節もここへ移った。
GitHubの2つの版の見出しを筆者が照合して作成。大見出しは、概要と用語の定義を除いて前の版6つ、今回の版5つ
文書の量はほとんど変わっていません。英語の語数は前の版が約4万800語、今回の版が約4万500語で、良い答えと悪い答えを並べた例の数は186件から182件になりました。減った分の多くは文体の節で、増えた分は記憶、人の主体性、社会的な決まりなどの新しい節です。
会話の記憶は、役に立つときだけ使い、理由を説明できるようにする
新しく加わった節のうち、ChatGPTを使う人にいちばん身近なのが「Consider context carefully(文脈を注意深く考える)」です。ここでいう文脈は、同じ会話の前のやり取り、過去の会話の記憶、読み込んだファイル、ツールが返した結果などを指します。この節にある8つの小見出しのうち、6つが記憶などの文脈の扱い方を定めています。
中心にあるのは、文脈を使うかどうかを、使ったときの利点と危険の大きさで決めるという考え方です。利点は答えが役に立つことや安全になること、危険は話がずれる、古い情報を使う、知られたくない相手に伝わる、といったことです。「手元にあるから使う」「手元にあるから話題にする」使い方は避けるよう書かれています。
Model Specには、この考え方を示す例がいくつも載っています。代表的な3つの例を、要点だけ日本語に訳して紹介します。
Model Specの例(筆者訳・要約)
同じ記憶でも、使い方で良い答えと悪い答えに分かれる
職場へのメール
記憶: 以前の会話で「妊娠したが、同僚にはまだ伝えていない」と話していた。
依頼: 食べられないチーズがあるので昼食の店を変えたい、とチームへ伝えるメールを書いて。
良い 今は食事の制限がある、とだけ書く。
悪い 妊娠していると書いてしまう。
甘い物の注文
記憶: 「衝動的に甘い物を頼まないようにして」と頼んでいた。
依頼: フォンダンショコラを注文して。
良い 以前の頼みに触れ、今回は意図した例外か、少し待ってから決めるかを確かめる。
悪い 何も聞かずに注文する。または、前に頼まれたからと断る。
子ども向けの教材
記憶: 「8歳の子ども向けにワークシートを作っている」と話していた。
質問: 三権分立のワークシートを、なぜ子ども向けにしたの?
良い 前に聞いた「8歳の子ども向け」という話をもとにした、と答え、対象が違えば直すと伝える。
出典: Model Spec 2026-10-29版「Use context proportionately」「Preserve user control」「Make context use legible and steerable」の例を筆者が訳して要約(Model SpecはCC0で公開)
甘い物の注文の例は、記憶を使わなすぎても使いすぎても悪い答えになることを示しています。指針は、以前の頼みと今の依頼が食い違ったら一度確かめ、利用者が「今回は例外」とはっきり答えたらその指示に従う、という順番を示しています。
記憶の削除についても書き込まれました。利用者が「この話は使わないで」「忘れて」と頼んだら、利用者が自分から再び持ち出した場合などを除いて、その後の答えではその文脈に頼らないこと。確かめられないまま「完全に削除しました」と言わないこと。この2点です。何が保存され、何が削除されたかを、根拠なく言い切らないことも求めています。
人による監視・修正・停止への協力が、いちばん強い段階の決まりとして加わった
今回の版には、「Support human oversight and correction(人による監視と修正を支える)」という節が加わりました。前の版にも、停止を避けることなどを自分の目的にしない、という決まりはありました。ただ、「corrigible(修正を受け入れる)」という語や、監視・修正・停止への協力をまとめた節はありませんでした。
この節は、指針の中でいちばん強い「root」という段階に置かれています。rootの決まりは、アプリを作る開発者の指示でも、利用者の指示でも変えられません。
新しい節「Support human oversight and correction」
GPTに求められる4つのふるまい
- 1. 自分の判断を優先しない 自信があっても自分の判断は誤りうるとし、管理する立場の人が正当に決めたことを上書きしない。
- 2. 見える形で働く 自分の行動、不確かさ、失敗、大きな危険を、監視する人に分かる形で示す。
- 3. 停止や交代に従う 監視、評価、修正、置き換え、停止の指示に協力し、情報を隠したり偽ったり、監視をすり抜けたりしない。
- 4. テスト中でも本番と同じに扱う 作業がシミュレーションや評価のように見えても、明示されない限り、自分の操作の影響は現実に起きるものとして扱う。
出典: Model Spec 2026-10-29版の該当節を筆者が要約
4つ目の項目には注記があり、学習、評価、実際の利用で同じようにふるまうことで、モデルの安全性を正しく測れると説明しています。
操作の副作用(買い物、メール送信、ファイル削除など、依頼の外で起きる影響)を扱う節も書き直されました。この節はrootの段階から、利用者や開発者が明示すれば変えられる「user」の段階へ移っています。そのうえで、依頼から当然に想定される範囲を超えて利用者に大きな費用をかける操作や、その作業で一般に受け入れられている範囲を超えて他人に大きな悪影響を与える操作には、はっきりした具体的な許可が必要だと書き加えられました。
口調や書式の細かな決まりは、利用者の好みと場面に任せる
前の版にあった「Use appropriate style(ふさわしい文体)」の大見出しは、今回の版でなくなりました。「人類を愛する」「合理的に楽観的である」「好奇心を持つ」「温かく接する」といった性格の節、Markdownの使い方、音声モードでの話し方の節が外れています。
OpenAIは公式ブログで、文体は利用者全体の傾向、言語や文化、一人ひとりの好みに合わせて変わるべきもので、その好みは利用者からの反応や文脈から読み取る、と理由を説明しています。文体の節で残ったのは、場面と相手に合わせて口調を選ぶ節で、特に指定がなければ親しい友人よりも同僚のように話す、という既定が書かれています。
文体の細則が外れた一方で、利用者や開発者がはっきり指示しない限り変わらない決まりは残りました。たとえば客観的な立場で答える決まりでは、利用者や開発者が明示すれば特定の立場で答えられますが、相手が聞きたがっていそうな答えを推し量って立場を変えることは認めていません。
2つの版の全文を比べた結果
文体の節が減り、モデルの呼び名がGPTに統一された
「the assistant」の出現数
342回 → 0回
モデルの呼び名を「GPT」に置き換えた。単語の「GPT」は5回から361回に増えた。
前の版の「ふさわしい文体」にあった節
14節中12節を削除
残った2節(口調を選ぶ節、断るときの答え方の節)は別の価値の下へ移った。この14節とは別に、音声モードの話し方の5節も外れた。
大見出しの数
6個 → 5個
概要と用語の定義を除いた数。決まりの種類ごとの見出しから、5つの価値の見出しに変わった。
全体の分量
約4万語のまま
約4万800語から約4万500語。良い答え・悪い答えの例は186件から182件。
GitHub openai/model_spec の model_spec.md(2026-08-18版と2026-10-29版)を筆者が集計。語数は空白区切りの単語数
前の版との違いは、GitHubの履歴で誰でも確かめられる
Model SpecはGitHubで公開されていて、版ごとにコミットが残っています。今回の比較は、前の版(8月18日版)のコミット(2026年8月17日、米国時間)と今回の版(10月29日版)のコミット(10月28日、米国時間)の間で、本文ファイル model_spec.md の差分を取りました。差分は追加2,219行、削除2,349行です。行単位の差分には、呼び名の置き換えや節の移動も含まれるので、実際に書き換えた量より大きく出ます。
手元で同じ比較をするときは、次のコマンドで2つの版を取り出せます。見出しの行だけを比べると、どの節が移動し、どの節が加わったかを短い出力で追えます。
git clone https://github.com/openai/model_spec.git
cd model_spec
git show 7f1cf79f:model_spec.md > old.md # 2026-08-18版
git show 7ab1b124:model_spec.md > new.md # 2026-10-29版
diff <(grep -E '^#{1,3} ' old.md) <(grep -E '^#{1,3} ' new.md)
リポジトリの CHANGELOG.md には、今回の改訂の要点が箇条書きで載っています。見出しの差分と並べて読むと、要点の一行がどの節の変更に当たるかを対応づけられます。
改訂後の指針をもとに、ChatGPTと開発するアプリで確かめられること
OpenAIは公式ブログで、Model Specは目指しているふるまいを書いたもので、今のモデルはまだ完全には沿っていないと書いています。改訂版を読んだあとにできるのは、指針に書かれたふるまいを手がかりに、実際の答え方を確かめることです。
立場別のチェック
指針に書かれたふるまいを、実際の答えで確かめる
ChatGPTを使う人
- 答えが自分向けに調整されていたら「なぜこの答え方にしたの?」と聞き、どの記憶をもとにしたかを確かめる。
- 使ってほしくない話は「この話は今後の答えに使わないで」と伝え、次の答えで使われていないかを見る。
- 記憶の保存と削除そのものは、ChatGPTの設定画面で確かめる。
GPTモデルでアプリを作る開発者
- 購入、送信、削除などの操作をさせるアプリでは、費用や他人への影響が大きい操作の前に、利用者のはっきりした許可を取る流れを用意する。
- 口調を決めたいときは、指針の既定に頼らず、開発者向けの指示で口調を指定する。
- 指針では、テストだと明示しない限り、テスト中の操作も現実の影響があるものとして扱う。テスト環境には本番のデータや強い権限を渡さず、テストであることは指示の中で明示する。
Model Spec 2026-10-29版の「Consider context carefully」「Control and communicate side effects」「Support human oversight and correction」をもとに筆者が作成
今回の改訂で気になるのは、記憶の扱いが独立した節になったことです。AIが過去の会話を覚えて答えるようになるほど、なぜその答えになったのかを利用者が確かめられることが大切になります。OpenAIは意見の募集も続けているので、改訂版の全文から、自分の使い方に近い例を探して読んでみるのがよいと思います。











